たかが本、されど本

本と本屋にまつわるエトセトラ。地方出版社勤務。ひそかに書店開業をめざし、こそこそ詮索中。

30年後、古書店が高額な金を払ってでも仕入れたい本はあるか?

 

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一日に出る新刊点数は約220点。ひと月に約6,600点、一年で約80,000点。これだけ新刊点数がありながら、ミリオンセラーと呼ばれる本は年に1、2冊である。しかも、そのミリオンセラーが良書かといわれると疑問符がつく。発行部数100万部を超えるヒット作は、やはり映像化やメディアの力によって生み出されることが多い。1年間で100万部を超える本より、10年、20年かけて版を重ね、到達した100万部の本の方が価値はあろう。いわゆる、時代を超えて読み継がれるロングセラーというやつだ。

 

 

 では、これらのロングセラーやミリオンセラーの本。古書店を営む、目利きの店主たちはどう見ているのか。古書店の店主が目を付ける本、高い値をつける本は決して、ロングセラーやミリオンセラーではない。文化的、学術的、歴史的価値のある本、豪華な箱入りなど装幀

偉人として教科書にも登場するような作家の全集(初版)などか。時代が変わったといえばそれまでだが、又吉航「火花」(文藝春秋刊)や石原慎太郎「天才」(幻冬舎館)なども該当しないはずだ。

 新刊と比べ、価格決定権がある店主たちは、カバーや箱に書かれた本体価格より低く設定せざるをおえない本ばかりを置くわけにはいかない(仕入れ値にもよるが)。文化的、学術的、歴史的価値のある本だからこそ、高額な値をつけて、確かな客へと販売する。これが出版文化継承としての古書店のあり方だと思う。これらを踏まえると、古書店店主が自身の店に並べたいと思う本は、現在皆無と言っていいだろう。

 古書店の品ぞろえが中古本的なものが棚を占めるようになると、客である読書家、本好きの人たちはどう思うか。その店主との個人的なつながりがない限り、客は離れていくだろう。品ぞろえは、古書店の生命線だ(新刊書店、小売店もしかり)。読書家、本好きな人ほど見切りは早い。古書店の経営が立ち行かなくなることは必至だ。

 新刊を発行する出版社は、経営的な事情もあろう。しかし、ミリオンセラーの類書や著者の人気に便乗した本ばかりを市場に投入するのでなく、「出版は文化だ」と言ってはばからないお偉いさんたちなら、これを具現化する本を作る努力や姿勢を見せてほしい。